紙の記録を宝に変える!製造現場の日報データ活用術
製造現場におけるデータ活用は、生産性向上やコスト削減を実現するための強力な手段として認識されています。しかし、IoTデバイスの導入や高度な分析システムの構築には、多大なコストと専門知識が必要となる場合が多く、導入へのハードルを感じている現場も少なくありません。
本記事では、特別なITツールや設備がなくても、製造現場に既に存在する「紙の記録」をデータとして活用し、具体的な改善活動につなげるための実践的な方法をご紹介します。日報や作業記録など、現場担当者が日々書き留めている貴重な情報を分析することで、生産効率のボトルネック発見や不良原因の特定など、様々な課題解決の糸口を見出すことが可能です。
なぜ紙の記録が重要なのか
製造現場では、日々の生産活動に関する様々な情報が紙媒体で記録されています。例えば、日報には、以下の情報が記載されていることが一般的です。
- 作業時間: 個々の作業に要した時間、休憩時間、手待ち時間など
- 生産数: 計画数、完了数、出来高、投入数など
- 不良情報: 不良の種類、発生数、発生した工程や設備、考えられる原因など
- 設備情報: 稼働時間、停止時間、停止理由、異常内容など
- 特記事項: 作業上の気づき、問題点、改善提案など
これらの記録は、現場の担当者がその場で経験した一次情報であり、製造プロセスの実態や潜在的な課題を把握するための宝庫と言えます。しかし、紙のままでは情報を集計・分析することが困難であり、せっかくの貴重な情報が活用されずに埋もれてしまっているケースが少なくありません。
紙の記録をデータとして活用するためのステップ
紙の記録をデータとして活用し、分析可能な状態にするための基本的なステップをご紹介します。最初から大規模な取り組みを目指す必要はありません。特定の課題解決に必要な情報に絞ってスモールスタートで始めることを推奨します。
ステップ1: 目的と収集項目の明確化
最初に、「何を明らかにしたいのか」「どのような課題を解決したいのか」といった目的を明確にします。例えば、「特定の製品の不良率が高い原因を知りたい」「段取り時間を短縮したい」などです。
目的が定まったら、その目的に関連する情報を紙の記録の中から特定し、データとして収集する項目を決めます。不良原因の特定であれば、不良の種類、発生日時、関連する設備、担当者などが収集項目になるでしょう。段取り時間の短縮であれば、各段取り作業の開始・終了時刻や内容などが収集項目となります。
ステップ2: データのデジタル化
紙の記録を分析するためには、デジタルデータに変換する必要があります。方法はいくつか考えられます。
- 手入力: Excelなどの表計算ソフトに、必要な項目を手で入力する方法です。時間と労力はかかりますが、特別なツールは不要で、最も手軽に始められます。まずは少ない項目、短い期間で試してみるのが良いでしょう。
- スキャンとOCR(光学文字認識): 紙の記録をスキャンし、OCRソフトウェアで文字データを抽出する方法です。手入力より効率的ですが、OCRの精度は手書き文字や記録の様式に依存するため、確認作業が必要になる場合があります。
- 専用のデータ入力シートの作成: 後工程でのデジタル化を容易にするために、日報の様式を一部変更し、集計しやすい形式で記録してもらう工夫も有効です。
どの方法を選択するにしても、データ入力のルールを明確に定め、ブレがないようにすることが重要です。
ステップ3: データの集計と簡単な可視化
デジタル化したデータは、Excelなどの表計算ソフトを使って集計・分析を行います。特別な分析ツールがなくても、基本的な関数や機能で多くのことが分かります。
例1:不良原因の特定
不良の種類ごとに発生件数を集計し、円グラフや棒グラフで可視化します。これにより、どの種類の不良が最も多く発生しているか、改善の優先順位はどこにあるかが一目で分かります。特定の不良について、発生日時や関連情報を時系列で並べてみることで、特定の曜日や時間帯、担当者、設備の利用状況との関連性が見えてくることもあります。
| 不良の種類 | 発生件数 | | :------------- | :------- | | 寸法不良 | 50 | | 外観不良(傷) | 30 | | 異物混入 | 15 | | その他 | 5 |
このような簡単な集計から、「寸法不良が全体の約50%を占めている」という事実が明らかになり、寸法不良の対策に注力すべきことが判断できます。
例2:作業時間の分析
製品ごとの標準作業時間と実際にかかった時間を比較したり、作業内容別の合計時間を集計したりします。特定の作業に想定以上の時間がかかっていることが分かれば、その原因(段取りの不備、手待ちの発生、設備のチョコ停など)を深掘りするきっかけになります。
| 作業内容 | 平均時間(分) | | :------------- | :------------- | | 加工A | 15 | | 加工B | 10 | | 段取り | 45 | | 検査 | 8 |
このような集計から、「段取り時間が他の作業に比べて長く、標準時間から最も乖離している」ことが分かり、段取り時間の短縮を改善目標とする判断につながります。
分析結果を改善活動に繋げるためのポイント
データ分析はあくまで手段であり、最終目的は現場の改善です。分析結果を具体的な行動に繋げるためには、以下の点を意識することが重要です。
- 現場へのフィードバック: 分析で分かった事実や傾向を、日報を記録している現場担当者と共有します。一方的な指示ではなく、現場の意見や知見を取り入れることで、原因特定や改善策の立案がより現実的になります。
- 具体的な改善策の検討と実行: 分析結果に基づいて、改善の優先順位を決定し、具体的な改善策を検討します。例えば、特定の不良が多いなら、作業手順の見直しや教育の強化、設備点検の頻度増加などが考えられます。
- 効果測定と継続的な分析: 改善策を実行したら、その効果を測定するために再びデータを収集・分析します。改善前後のデータを比較することで、施策の有効性を評価し、必要に応じてさらなる対策を講じます。このサイクルを繰り返すことで、継続的な改善が可能となります。
まとめ
製造現場に眠る紙の記録は、データ活用のための貴重な第一歩となり得ます。高価なシステムや専門知識がなくても、目的を明確にし、無理のない範囲でデータをデジタル化し、Excelなどの身近なツールで集計・分析することから始めることが可能です。
重要なのは、分析で得られた知見を現場と共有し、具体的な改善活動に結びつけることです。紙の記録から始めるデータ活用は、製造現場の課題解決、生産性向上、コスト削減に向けた、小さくても着実な一歩となるはずです。まずは、自社の現場で最も気になる課題に関連する記録から、データ活用の可能性を探ってみてはいかがでしょうか。