製造現場の設備稼働率をデータで改善する実践ステップ
製造現場の設備稼働率をデータで改善する実践ステップ
製造現場における設備稼働率は、生産性やコスト効率に直結する重要な指標です。しかし、「データは取っているものの、どう活用すれば良いかわからない」「改善活動がうまくいかない」といった課題をお持ちの責任者の方も多いのではないでしょうか。
データ分析は、設備稼働率の低下要因を特定し、効果的な対策を講じるための強力なツールです。本記事では、特別な専門知識や高度なITツールがなくても始められる、製造現場の設備稼働率をデータで改善するための実践的なステップをご紹介します。
設備稼働率改善にデータ分析が必要な理由
設備稼働率が目標値を下回っている場合、その原因は様々です。機械の故障、段取り替え時間の長さ、短い停止(チョコ停)、不良品の発生、作業員の習熟度不足などが考えられます。これらの原因を特定し、対策を打つためには、感覚や経験に頼るのではなく、客観的なデータに基づいたアプローチが不可欠です。
データ分析を行うことで、以下のようなことが明らかになります。
- 最も頻繁に発生している停止原因
- 停止時間が最も長い停止原因
- 特定の時間帯や曜日に発生しやすい問題
- 特定の設備やラインで顕著な問題
これらの事実に基づいた情報は、対策の優先順位付けや、問題の根本原因の特定に役立ちます。
データ分析で設備稼働率を改善する実践ステップ
ここでは、データ分析を活用して設備稼働率を改善するための具体的なステップを解説します。
ステップ1: 稼働率に関する現状データの収集
まずは、現状の設備稼働率に関連するデータを収集します。最低限収集したいデータは以下の通りです。
- 対象期間: 分析を行う期間(例: 1週間、1ヶ月)
- 対象設備/ライン: 分析を行う設備またはライン
- 総運転時間: 対象期間における設備の計画上の稼働時間
- 実稼働時間: 対象期間における設備が実際に生産活動を行った時間
- 停止時間: 総運転時間から実稼働時間を差し引いた時間
- 停止理由: 停止が発生した場合の具体的な理由(例: 故障、段取り替え、材料切れ、品質確認、清掃など)
これらのデータは、紙の日報、Excelファイル、PLC(プログラマブルロジックコントローラー)からの自動収集システムなど、現在利用可能な方法で収集されているもので構いません。まずは「どのようなデータが取れるか」を確認することから始めます。
ステップ2: 基本的なデータの集計と可視化
収集したデータを集計し、現状を「見える化」します。特別な分析ツールは不要で、表計算ソフト(Excelなど)で十分対応可能です。
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稼働率の計算: まず、基本的な稼働率を計算します。
稼働率 (%) = (実稼働時間 / 総運転時間) × 100
この計算を日ごと、週ごと、設備ごとに行い、推移や設備間の比較を行います。 -
停止時間の内訳集計: 収集した停止理由ごとに、合計停止時間を集計します。 例えば、以下のようになります。
| 停止理由 | 合計停止時間 (時間) | | :----------- | :------------------ | | 故障 | 20 | | 段取り替え | 15 | | 材料切れ | 8 | | チョコ停 | 5 | | その他 | 7 | | 合計 | 55 |
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停止原因の可視化: 集計した停止時間の内訳をグラフで表示します。棒グラフや円グラフが適しています。これにより、どの停止理由が最も多くの停止時間を発生させているか、一目で把握できます。これは「パレート図」の考え方に近く、影響の大きい少数項目(重要な停止理由)を特定するのに役立ちます。
例えば、停止時間の中で「故障」が全体の大きな割合を占めていることがグラフから明らかになるかもしれません。
ステップ3: データから改善のポイントを特定する
集計・可視化したデータから、改善の優先順位を決定します。最も停止時間が長い停止理由や、最も頻繁に発生している停止理由に注目します。
例えば、先の例で「故障」が停止時間の40%を占めていると分かった場合、まず取り組むべきは故障対策である可能性が高いです。さらに掘り下げて、どのような種類の故障が多いのか、特定の部品の故障なのか、特定の作業者が操作する際に発生しやすいのかなど、詳細なデータを収集・分析することで、より具体的な原因に迫ります。
ステップ4: 改善策の実施と効果測定
特定された改善ポイントに対して、具体的な対策を実施します。
- 例1: 「段取り替え時間」が長いことが原因であれば、段取り手順の見直し、治工具の改善、事前準備の徹底といった対策を講じます。
- 例2: 「材料詰まり」によるチョコ停が多い場合は、材料の供給方法の改善、設備の清掃頻度見直し、センサー感度の調整などを行います。
対策を実施したら、必ずその効果をデータで測定します。対策実施前後の稼働率や、特定の停止理由による停止時間の変化を比較します。これにより、対策が効果的であったか否かを客観的に判断できます。効果が不十分であれば、別の対策を検討するか、さらに詳細なデータ分析に戻る必要があります。
ステップ5: 継続的なモニタリングと改善
データ分析に基づいた改善活動は、一度行えば終わりではありません。稼働率や停止時間のデータを継続的にモニタリングし、新たな課題の出現や、過去の対策の効果維持を確認することが重要です。
また、改善活動のプロセス自体もデータに基づいて評価し、より効率的な進め方を見つけることも含まれます。PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)をデータ分析を軸に回していくことが、持続的な生産性向上につながります。
スモールスタートの考え方
すべての設備やラインで一度にデータ分析に基づいた改善活動を行う必要はありません。まずは特定のボトルネックとなっている設備や、データ収集が比較的容易な設備から着手することをお勧めします。小さな成功体験を積み重ねることで、関係者の理解と協力を得やすくなり、活動を他の設備やラインへ展開していくことが可能になります。
まとめ
製造現場の設備稼働率向上は、データに基づいた分析と実践的なステップを踏むことで、着実に進めることができます。まずは現状のデータ収集から始め、基本的な集計と可視化を通じて、改善の優先順位を明確にすることから取り組んでみてはいかがでしょうか。
データは、製造現場に眠る課題を明らかにし、効果的な打ち手を示唆してくれる宝の山です。ぜひ、この実践的なステップを参考に、皆様の現場でのデータ活用を推進してください。